第8回 高齢者住まい法が高齢者住宅市場に及ぼす影響~その2・事業面に関して~

既存の有料老人ホームは登録しないのでは

高齢者の居住の安定確保に関する法律の一部改正法(改正高齢者住まい法)が10月から施行されます。高齢者円滑入居賃貸住宅(高円貨)・高齢者専用賃貸住宅(高専賃)・高齢者向け優良賃貸住宅(高優賃)は廃止され、新たな「サービス付き高齢者向け住宅」(以下、「サ高住」)に統合されます。「サ高住」は従来の高専賃制度と同様に、都道府県への登録制度となっています。登録には基準が設けられ、従来の高専賃の基準よりもハードルを引き上げています。

住宅に関する基準では居室は原則25㎡以上や、バリアフリーであることなど、サービスに開する基準では、生活相談員が常駐し、緊急通報や安否確認の体制があることなど、契約に関する基準では、賃貸借方式であること(利用権方式の場合、長期入院などを理由とした退去を防止)、敷金・家賃・サービス対価以外の金銭受領の禁止、前払い金の返還ルールの明示および保全措置を図ることなどが設けられています。

これらの登録基準を満たせば有料老人ホームも「サ高住」として登録することも可能です。この基準が、高齢者住宅事業者にどのような影響を及ぼすかを考えてみたいと思います。

すでに開設している高齢者住宅は「サ高住」に登録するのでしようか。

「サ高住」の登録基準には新たにバリアフリーや見守り相談サービスが加わりました。現在、高専賃では一切のサービスを提供していないものが12%(※タムラプランニング&オペレーティング調べ)存在しています。また、一時金を徴収しているもののなかには、新たな基準に合致しない名目で徴収しているところもあります。

しかし、多くの高専賃は「サ高住」の基準に合致するように修正し、ほとんどが登録に回るでしょう。登録しなければ、サービスを提供する高専賃は有料老人ホームの届け出を求められるからです。有料老人ホ~ムの届け出はハード・ソフトの基準が厳しく、長期収支計画など膨大な書類を求められますので、避けたいでしょう。

一方、既存の有料老人ホームは「サ高住」に登録するでしょうか。多分多くの有料老人ホームはしないでしょう。それはメリットがないからです。「サ高住」に登録することで、ホームの信用度が高まるわけでもなく、整備費補助・優遇税制・公的融資の3点セットが使えるわけでもありません。

また、登録に際し大きな障壁となるのが、部屋の移動や退去に関して入居契約書の条項を変更することです。通常、有料老人ホームでは、介護度や認知症の症状が進行した場合、介護居室に移ることが珍しくありません。しかし「サ高住」では、ほかの居室に移る場合、契約をいったん解除して新たな居室での契約をし直すことになります。

さらに、長期入院を理由に退去を求める条項が入っている契約は登録が認められません。

 

入居一時金の基本には家賃の前払いに制限

権利金・礼金など家賃・サービス費以外の前払い金受領が認められません。消費者保護の立場から名目の立たない費用の徴収を認めない点を明確にしました。東京都はさらに踏み込み、有料老人ホームの初期償却に関しても、認めない方針を打ち出しました。

入居一時金を取っている事業者にとっては、事業収支の根幹を揺さぶる大きな難題がつきつけられています。

平成12年に介護保険制度が始まって、10年間で全国の平均居室面積は15㎡から18㎡に広がり(※タムラプランニング&オペレーティング調べ)、入居金の平均額は500万円が250万円(※同)に半減しました。競争原理が働いたからです。

正当な競争の場から逃れる無届有料老人ホームや悪質ホームの存在を20年前から筆者は指摘し続けてきましたが、厚生労働省をはじめ都道府県・市町村は行政介入しようとせず、長い問、無届状態を放置してきた結果が今日のトラブルを招きました。これら悪質事業者の芽を早めに摘み取っていれば、消費者からの苦情も少なかったことでしょう。悪貨が良貨を駆逐した感があります。

行政の作った制度で画一的な商品に誘導するより、民間の創意工夫でバラエティに冨んだ商品開発で競争を促し、情報開示を徹底させる積極的な行政指導こそが今求められているのではないでしようか。

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