第10回 田村明孝の辛口コラム~エングゴードバッケン(高齢者特別住居)の運営とターミナルケアから学ぶ<ホスピス系有料老人ホームのあるべき姿>

スウェーデン第2の都市ヨーテボリ市にあるこの高齢者特別住居は、‘3つの財団’が運営している。‘3つの財団‘とは、ヨーテボリ市の行政区から民間委託されて運営している団体の1つで、評判がよく人気のあるホーム運営をおこなっている。
運営している高齢者住居数は、3ヶ所で約400戸弱、職員数は約400名程度と多い。老人ホーム、ナーシングホーム的なものから、高齢者向け認知症のグループホーム、65歳以下の若い高次機能障害者の小規模ナーシングホームや高齢者精神病疾患の方々のグループホームと、その運営も多岐に及んでいる。

‘3つの財団’の高齢者ケアの運営方針は“自分が年をとった時に住みたい高齢者住宅を目指す”として、以下の4点を重点政策としている。
1: 家庭的な内的環境づくりと庭などの外的環境を整える
2: 意義のある文化活動とアクテイビティーの充実
3: フットケアや食事などサービスが充実した開放型施設
4: 職員は専門能力に優れ、継続教育を続ける
職員の退職者はほとんどいないというが、専門職としての誇りを持って、そこに居住する高齢者を中心とした、家庭らしい環境作りを心掛け、生活の質を高める方針が運営に活かされている。

ターミナルケア 看取るということ

正看護師アンキ・ハンソンさんからターミナルケアについての考え方とその実践に関して話しを聞いた。
スウェーデンでもまだ病院で亡くなるケースが多いが、多くの高齢者は自分の最後は、ペインコントロールのもと、苦しまず最後を看取られたいと願っているし、私たちもここで看取ることを最終の目的としている。
ここへ入居する多くの高齢者はここでターミナルケアを受けて亡くなっている。病院へ入院するケースは骨折など手術の必要な時くらいで、ましてここから病院へ入院して死をむかえるケースは皆無である。
このホームの入居者は、自宅での生活が困難になったと判定された要介護高齢者なので、ここに移り住んでからの生活期間は2年から3年と比較的短い時間である。
食事は最後の段階まで提供するが、身体が衰弱し死が近くなると自然に食事をしなくなる。体が衰弱しているために食べ物を拒否しているので、それを強要して摂取させるのは苦痛を与えるだけで、良くないことであると考えている。食事ができなくなるから死を迎えるのではないと理解するのは、家族にとっては難しいことである。
しかし、この状態になってから、点滴で栄養や水分を取ると、水分を消化し血液を循環させるために心臓に負担を掛けることになる。喉がゴロゴロ鳴ったり、ゼイゼイと呼吸するのはそのせいである。本人にとっては苦痛そのものである。
喉が渇いていると思われる時には、15分に1回、湿らせたスポンジで舌の横にある渇きのセンサー部を湿らせると良い。口腔ケアはミントなどの良い匂いのするものを使い、歯磨きなどをする。
死が近づくと体位交換など体を動かすことに苦痛に感じるので、エアーマットなどを使用して、負担がかからないようにしている。この状態で急に体を動かすと気分が悪くなるので、大事に体に触れ体位交換や移動ができるテクニカルな教育は欠かせない。
死が直前まで迫ってきた時には、体を抱いて触れ、密着して人間の体のぬくもりを感じられるようにしてあげると安心される。
医者は週1回往診し、状態を確認しモルヒネの投与などの指示を出し、看護師が医療ケアを行う。
一番重要なことは、家族にとってやるべきことはすべてやった、もうやり残したことはないと思って死を迎えることである。
居室には、家族に看取ってもらえるようにエキストラベッドを用意し、看取りの期間中家族のための食事も用意する。クラシックなど本人が好きだった音楽を流し、駐車場の確保など家族が一緒に過ごす時間をあらゆる面から様々なサポートをしていく。
いよいよ亡くなった時、死亡時刻を告げ、家族には最後に着せる服を選んでもらい、職員が体を清めた後にキャンドルに灯をともし、お別れすることとなる。この居室でいつまでお別れの時間を取るかは、家族が決めることができる。親族も集まり、家族が十分気持ちの整理がついたところで、安置室に移す。
通常2~3年暮らしていて、職員との人間関係もできているので、職員からのお別れも悲しいものとなる。この仕事では死は避けられない。人間の死というものは特別なものがあるので、職員の精神的なケアを怠ってはならない。

令和4年2月までの1年間で147万人が亡くなっている。前年より8万人増加した。その大半が高齢者だ。見取りを目的とした有料老人ホームが急増しているのはこのためだ。
平均滞在日数は60日から90日。数日の入居もいる。
ここで行われているターミナルケアは密室化し、必ずしも良好なケアが行われているとはいえない。
日経新聞で見取りを目的とした有料老人ホームを有望なビジネスモデルとして特集した。実態は上述したターミナルケアとは程遠い粗悪なケースが散見されている。利益追求のビジネスモデルとして取り上げた結果、参入する事業者が増えているが、外部からターミナルケアのサービス内容をチェックするシステムを厚労省は考えなければならない時が来た。