第27回 田村明孝の辛口コラム~まだまだ足りない高齢者住宅・施設~

65歳以上人口はピークを過ぎて今や減少傾向となっている。
一方で、団塊の世代は75歳を超え、75歳以上人口は今後10年間、85歳以上人口はその後の10年間増え続ける。
高齢者住宅・施設の供給は、今後20年間に亘り増やしていかなければならないが、20年後はピークを過ぎ、供給過剰で飽和状態が始まり、入居率の低い高齢者住宅・施設から順次淘汰されていくこととなる。ハードソフトともに品質がより問われる時代に入っていく。

特に民間が行う有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅の新規開設は、少なくとも20~30年は運営していくこととなるので、以下の点を考慮して計画しなければ経営は一層厳しいものとなる。
これからの高齢者住宅に特に求められるのは、落ち着いた居住空間・小さな単位での生活ユニット構成・認知症及び看取りについてスタッフ教育・接地性を感じる庭の活用・給食ではない食事の提供・尊厳のある入浴と排泄・自由な面会が保証されたコミュニティなど、現在の高齢者住宅で改善されなければならない品質の改良は山積している。
採算性にとらわれ過ぎるあまり、入居者に目が向いていない、これらの課題が解決していないホームがいかに多いことか嘆かわしい現状ではあるが、時の経過でより厳しい環境に置かれることとなり、品質改善に必然的に取り組まざるを得なくなる。

このような現状を生み出しているのは、高齢者住宅・施設の供給が不足していることに起因していると筆者は考える。供給過剰になると競争原理が働き、よいものが勝ち残っていくが、不足状態では悪いものが淘汰されることはない。

介護保険3施設と特定施設入居者生活介護と認知症高齢者向けグループホームの供給(総数164万人分)は明らかに不足している。これらに入居(入所)する必要のある高齢者数(需要量)は、要介護3以上の認定者数が相当と思われる。
要介護度3~5の認定を受けている要介護認定者は、日常生活上介護者がいなければ、着替え食事入浴排泄などの身の回りのことが出来ないため、24時間に亘る介護サービスが必須となる。
介護度に関わらず、必要な介護サービスが必要なだけ提供される上記ホームは、入居者にとって安心できるホームだ。

介護保険月報によると、2月現在要介護3以上は240万人。単純にこの240万人に対して、164万人分の高齢者住宅・施設の供給では、76万人分が不足する計算だ。
しかも、要介護2であっても家族やお世話する人がいない単身生活の高齢者にとって夜間の介護がないと生活は送れない。家族が同居していても重度認知症の人も、高齢者住宅・施設に入れなければ生活が成り立たない。これらの高齢者は少なくとも数十万人がいるものと思われるので、現実的には、不足数は80万人から90万人に達するものと思われる。

これら行き場のない高齢者を受け入れてきたのが、介護保険居宅サービスなど個別に介護サービスを契約する住宅型有料老人ホーム(36万戸)、サ付き(22万戸)などだ。これらは合計約62万戸が供給されている。
仮に不足を76万人としても、まだ14万人分が足りていないこととなる。
住宅型やサ付きを特定施設に転換し質の転換を図るとともに、国は不足の14万戸を早急に供給する方策を立てる必要がある。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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