- 2024/10/04
- 田村明孝の辛口コラム
多くの高齢者は自分の最期は、穏やかに枯れるように、家族に看取られて逝きたいと願っている。その場を提供し、願いを叶えるのが、高齢者住宅の重要な役割である。
今日、多くの緩和ケアホーム(ホスピスホーム)が開設されているが、ホスピスホームで、この願いがかなえられているのだろうか。
共同通信の配信記事によると、いかに医療報酬を稼ぐかがミッションとなって、不正請求の温床となっているホスピスホームが記事に取り上げられている。穏やかな最期は彼方に追いやられ、事業利益追求が至上命題となっているように思えるのだが、ホスピスホームの供給数トップの「医心館」は、どのような事業方針のもとに運営しているのかを検証する。
株式会社アンビスホールディングスの2023年9月期の有価証券報告書に、「医心館」事業の考え方が表示されているので抜粋して記載する
「医心館事業」
主にアンビスが運営する医心館事業では、訪問系サービスである「訪問看護」「訪問介護」及び「居宅介護支援」等と施設系サービスである「有料老人ホーム」とを有機複合的に組み合わせることにより、退院後の行先に不安や心配がある医療依存度が高い方やその家族といった顧客の幅広いニーズに応える「医心館」を展開しております。
特に看護師の人員体制を強固にすることで、医療依存度が高い方の終末期の療養において充実した看護ケアを提供していることを特徴としております。
「入居者から見た医心館事業の特徴」
医心館は、医療依存度の高い方々の安寧と尊厳のために、安心して暮らせる療養の場を提供できるよう事業を展開しております。医療依存度が高く「自宅等」で看護・介護を十分に得ることが難しい方々に対して、終末期の“療養”の機能を“住まい”に付加した場(退院後の行先)を提供し、看護職員がメーンプレイヤーとなって、最後まで責任あるケアを提供しております。
「収益構造からみた医心館事業の特徴」
収益は、国保連等の審査支払機関から得る医療保険報酬+介護保険報酬+入居者から収受する家賃・管理費・食費等の保険適用外売上による三階建構造で構成されております。
特養や老健や他の介護施設(有料老人ホーム等)と異なり、医療依存度が高い方に特化した事業であるため、病院から在宅へのシフトを推進する政策の「追い風」環境下において、介護保険報酬に加えて医療保険報酬の両方から収益を得ており、事業運営は安定していることが最大の特徴であります。
「末期がん患者を中心とする医心館の展開の推進」
医心館は、終末期医療に特化した看護体制を備えた在宅医療のプラットフォームとして機能しており、入居者の過半数が末期がん患者になります。
最後まで責任ある医療的ケアを行った結果、病院に搬送することなく医心館で最期を迎える方の割合は非常に高い水準に至りました。
2023年9月期の主な相手先別販売実績は、神奈川県国民健康保険団体連合会56億円・社会保険診療報酬支払基金33億円・埼玉県国民健康保険団体連合会33億円の順となっていて、総販売高の38%を占める。
上記から分かるように、医心館の収益は三階建構造と言いながら、医療報酬である訪問看護が中核を占めていることがわかる。介護職員は極めて少なく介護報酬はごく僅かしかない。また、来月オープンする高田馬場の家賃・管理費・食費は17万円、他の有料老人ホームの平均27万円と比べ圧倒的な安さが売りである。
有料老人ホームは規定で居室は個室13㎡以上だが、尊厳ある暮らしが営めるとはとても思えない最低基準の居住空間となっている。ホテルコストの収支上の利益は殆ど上がっていないが、ここで利益を出す必要がない。
訪問看護による医療報酬は、月額60万円から時には100万円を超えることもあり、制度の追い風を良いことに、不要とも思える訪問看護を付けて売上高を伸ばしているホスピスホームが報道されているが、医心館の利益構造はこれと同様なのだろう。
癌末期患者や難病・精神疾患の入居者が事業に利用され、売り上げに寄与するビジネスモデルは大きな社会損失となっている。
スウェーデン・ヨーテボリ市の「3つの財団」が運営する高齢者特別住居の看取りケア
入居者のほとんどが、ここでターミナルケアを受けて亡くなる。病院へ入院するケースは骨折など手術の必要な時くらいで、ここから病院へ入院して死をむかえるケースはない。
食事は最後の段階まで提供するが、身体が衰弱し死が近くなると自然に食事をしなくなる。体が衰弱しているために食べ物を拒否しているので、それを強要して摂取させるのは苦痛を与えるだけで、良くないことだ。
この状態になってから、点滴で栄養や水分を取ると、水分を消化し血液を循環させるために心臓に負担を掛けることになる。喉がゴロゴロ、ゼイゼイと呼吸するのはそのせいで、本人にとっては苦痛そのものである。
喉が渇いていると思われる時には、15分に1回、湿らせたスポンジで舌の横にある渇きのセンサー部を湿らせると良い。口腔ケアはミントなどの良い匂いのするものを使い、歯磨きなどをしている。
死が近づくと体位交換など体を動かすことに苦痛に感じるので、エアーマットなどを使用して、負担がかからないようにする。この状態で急に体を動かすと気分が悪くなるので、大事に体に触れ体位交換や移動ができるテクニカルな教育をスタッフに行っている。
死が直前まで迫ってきた時には、体を抱いて触れ、密着して人間の体のぬくもりを感じられるようにしてあげると安心される。
医者は週1回往診し、状態を確認しモルヒネの投与などの指示を出し、看護師が医療ケアを行う。
一番重要なことは、家族にとってやるべきことはすべてやった、もうやり残したことはないと思って看取ってもらうことだ。
居室には、家族に看取ってもらえるようにエキストラベッドを用意し、看取りの期間中家族のための食事も用意する。本人が好きだった音楽を流し、いつでも来られるよう、駐車場の確保など家族が一緒に過ごす時間をあらゆる面から様々なサポートをしている。
いよいよお亡くなりになる時、医師が死亡時刻を告げ、家族には最後に着せる服を選んでもらい、職員が体を清めた後にキャンドルに灯をともし、お別れすることとなる。この居室でいつまでお別れの時間を取るかは、家族が決めることができる。親戚も集まり、家族が十分気持ちの整理がついたところで、安置室に移す。
スタッフとの人間関係もできているので、スタッフからのお別れも悲しいものとなる。この仕事は入居者の死は避けられない。人間の死というものは特別なものがあるので、スタッフの精神的なケアも怠ってはいけない。
これは、高齢者特別住居の看護師に見取りをどのように行っているかのレクチャーを受けたときのもので、入居者に寄り添って温もりのある見取りと、家族に対するグリーフケアはとても感銘を受けたことを覚えている。
医心館が、「3つの財団」のような運営理念を持って実践しているとはとても思えない。事業利益の追求に邁進するよりも、もっとも重要な人間の最期を看取るに際しての理念を、医心館は発信するべきだ。
1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。
1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。