第28回 田村明孝の辛口コラム~急増する緩和ケア(ホスピス)ホームの実態を暴く~

訪問看護事業所と高齢者住宅がセットされた「訪看セットホーム」を舞台に、アンビスやサンウェルズ・ヴァティーなどが、癌末・パーキンソン・精神疾患などの患者を募集・入居させ、これらの入居者に訪問看護を使って会社ぐるみの不正や過剰診療報酬請求の実態が、共同通信社から配信された記事で明らかになっている。
高齢者住宅(住宅型有料・サ付き)+訪問看護ステーション(他社連携・自社直営)+入居者(特定疾患患者)+紹介事業所(病院・入居紹介センター)の組み合わせが味噌で、入居者一人当たりの年間売上高が1400万円にも達する不正の仕組みを構築し、急速に売り上げを拡大して、東証プライム市場への上場企業が出現するまでに至っている。

この儲けのからくりを整理する上で、当社ではキーとなる訪問看護ステーション・訪問看護事業所を高齢者住宅にセットしたシステムを「訪看セットホーム」と呼ぶことにする。
「訪看セットホーム」は、ヴァティーなど3,654ホーム145,246戸が全国で供給されている。
従来、要介護者を入居対象として、介護サービスを提供する有料老人ホームは、当然「介護保険」の各種サービスが中心となっている。だが、近年では難病や特定疾患患者を入居させ、訪問看護で診療報酬を得る「医療保険」を主とした収益構造のホームが急増している。
これらは「ホスピス型住宅」とか「ホスピスホーム」などと称して、ホームページやパンフレットなどに、癌末期やパーキンソン病など厚労大臣が定める別表7・別表8に該当する疾病や病態の高齢者を対象として入居募集している。
これら疾病に該当する患者(入居者)は、医療保険の対象となり、医師による特別訪問看護指示書があれば、複数名での訪問や週4回以上の訪問看護が可能となる。
この制度を悪用して、訪問看護の診療報酬額を、1人月額90万円を看護師に課しているホームが現れ、110万円超にも上る診療報酬を得ているホームもでてきた。
これらのホームを、筆者は「緩和ケアホーム」と称することとし、アンビスやサンウェルズなど全国に611ホーム27,643戸が2025年4月現在供給されている。

緩和ケアホーム供給ランキング上位10社

緩和ケアホームの最大手アンビスは「医心館」のブランドで、2017年ころから急激に供給を増やしてきた。現在122か所6,247戸を運営し供給ランキングトップ。
癌末期患者は、ホスピス病棟への入院期間はほぼ1カ月間で、早期に退院をさせたい病院側と、退去を迫られ、行き場を失った患者の受けなる皿となる「医心館」の存在は、両者にとって欠かせない存在となった。ここに目を付け、ビジネスとして着目したのがアンビスである。
自宅に戻れない患者(入居者)や家族にとって、重篤な患者の最期を看取る場を提供してくれる「医心館」は、願ったり叶ったりの家族に喜ばれる対象であった。
しかも、月額費用は家賃・管理費・食費など諸々含めて11万円と、採算を度外視した安い価格を提示して経済的負担を軽減し、家族の信頼をさらに高めていく。

このような良いこと尽くめにみえる裏側では、強かな悪知恵を働かせ、診療報酬の不正や過剰な訪問回数・訪問人数で荒稼ぎするレセプトの改ざんが日常的に行われていた。
プロ意識のある看護師にはレセプトを書かかせず、事務方が不正なレセプトを書くようにさせ、不正の発覚を免れていた。

アンビス社長柴原慶一の表向きの善人顔と、裏向きの強かな悪人顔が交互に垣間見られる後味の悪い事件となった。
くしくも、サンウェルズは東証プライム市場からスタンダード市場に市場変更区分申請準備に入ったと本日発表した。いつまで上場でいるつもりなのか、早く市場から撤退すべきだ。
医療保険を舞台とした不正請求で、ノルマを課した売り上げ至上主義は、強欲な経営者のもとでの犯罪となっている。摘発に向けて国は動き出さないと、国民は納得しない。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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