第13回 田村明孝の辛口コラム~「明日の高齢者住宅」その3 ~運営に対する基本的考え方~

前回の「運営に関する基本的考え方」の続きを述べ、最後のまとめとする。

コミュニケーション 家族・友人・地域との交流
社会参加や地域との交流は、入居者の生きがいにも通じることから、ここでは様々な活動を積極的に支援している。
生涯を通しての学習を望む入居者は多い。ネットなどを活用して学習の場を提供し、入居者間のサークル活動を支援し、成果物の展示によってよりコミュニティーは活性化する。また地域との交流を支援し、文化的活動やスポーツ活動で交流を深める。
家族の来訪しやすいよう、ゆっくりくつろげる環境で家族との会話や一緒に食事をとることもできる。
コロナ禍にあって、地域をはじめ家族とも交流を遮断したホームが多くあった。コロナ禍が過ぎた今でも遮断継続している施設を多く見かけるが、「明日の高齢者住宅」では感染予防設備や予防体制の構築によって、以前通り家族友人知人とふれあうコミュニケーションの機会が維持できるよう配慮している。

認知症ケア さまざまな療法で落ち着いた生活
認知症は、早期発見・早期診断・早期治療が重要であり、認知症専門医や認知症専門看護師との連携は欠かせない。診断によって、入居者が3か月後6か月後1年後3年後5年後・・・どのように病状変化するかを予測し、スタッフ全員が共有してその対応にあたる。
認知症と診断された入居者が、生まれてから今に至るパーソナルヒストリーを詳細にヒアリングする。どこで生まれ、両親は、兄弟は、学校は、職業は、結婚は、家族は、どこに住んでいる、好きなもの嫌いなものは、趣味は、食べ物の好き嫌い・・・これを把握することは、認知症BPSD対処のヒントとなる。心身に悪いことは排除し、心身に良いことは生活環境に取り入れることで、安定した精神状況を保つことができる。
認知症ケアプログラムは、スヌーズレン療法・タクティール療法・レミニサンス療法・園芸療法などその人が最も落ち着く療法を採用して、穏やかな暮らしができるよう細心の配慮のもと療法を行う。
スタッフの認知症教育はとても重要な役割を負うものと考え、高度な認知症ケアができるよう研修の場を設ける。

ターミナルケア ここで看取ることが最終の目的
「明日の高齢者住宅」の究極の目的は、様々な楽しみや活動の場を提供するばかりではなく、自身の部屋で、家族に看取られ、安心して安らかな最期を迎えられるようにすることだ。
入居者が食事を摂れなくなり、ガーゼに浸した水分で口を潤すだけの状態で、次第に眠りに入るように最期を迎える。このような状態で死に対峙することを私たちは目指している。
死亡者の7割を超える人が病院で死を迎える。病院は治療の場であり最後まで命を長らえさそうとする場である。高齢期に入り、寝たきり状態となり点滴でただ生かされていることがどれほど本人にとってきついことか、看護師により家族に十分な説明をし、理解してもらい安らかな最期を迎えるターミナルケアをここで行うことが重要である。
病院では、ゴロゴロゼイゼイと苦しんでいる高齢者を多く見かける。この苦しみを減らせないか、延命治療が果たして人間として最期を迎える時の選択として正しいか、あらためて考えるべきだと思う。「明日の高齢者住宅」はそのような場には決してならないと決意した。

私たちの考える「明日の高齢者住宅」は、高齢期に差し掛かり何らかの不都合を感じ始めた時、私たち自身が入居したくなる高齢者住宅とはどのようなものかを取りまとめたものだ。
特養や老健、グループホーム・有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅・・・様々なジャンルが存在しているが、ジャンルを分ける必要は何もない。
「明日の高齢者住宅」に統合する方向で検討すべきと問題提起をしたい。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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