第15回 田村明孝の辛口コラム~「有料老人ホーム・高齢者専用賃貸住宅」2006年の変

2000年介護保険が開始された当時の有料老人ホームは、入居時自立で介護が必要となっても継続して住み続けられる特定施設の指定を受けるものが圧倒的多数を占めていた。しかし、ホーム事業者の中には、介護保険法の縛りを嫌い、より高額な介護報酬が得られる居宅サービスでケアプランを作成する住宅型有料老人ホームを選択するホームもあった。関東の自治体は介護付を指導していたが、大手のライフコミューンやベストライフは住宅型有料老人ホームを選択した。
入居者の要介護度が5の場合、ホームの収入となる介護報酬は特定施設では25万円/月のまるめ報酬に対して、居宅サービスの報酬限度額は36万円/月で、はるかに儲かると踏んで住宅型有料老人ホームの選択に向かった事業者だ。しかし、供給戸数は必ずしも急増とはいえない状態だった。

関西では倒産や劣悪なサービスの苦情が自治体に多く寄せられ、有料老人ホームの届け出を拒む自治体もあった。高齢者専用賃貸住宅は登録制であり、有料老人ホームよりも簡単に事業が開始できるとして、高専賃に誘導していた。
しかし、有料老人ホームは届け出のため自治体の強い指導力をもってしても、有料老人ホームの届出を拒否することはできない。特定施設である介護付有料老人ホームを何としても拒否したい関西の自治体は、介護保険法改正に合わせて2005年12月関西5府県の福祉部長連名で厚労大臣宛てに、特定施設の総量規制を求める要望書を提出した。
この要望が通り、急遽2006年4月特定施設(混合型・介護専用型)は、介護保険事業(支援)計画の整備値を超える場合、都道府県・政令市は拒否できることとなった。
これをきっかけに、2006年度以降介護付有料老人ホームの新規開設は極端に落ち込み、住宅型有料老人ホームが急増することとなる。これが「2006年の変」だ。

おりしも、国交省は高専賃に介護保険法の特定施設が使えるよう、居室面積25㎡以上で介護等サービスのついた「適合高専賃」の制度を新設し、厚労省に介護保険法の改正を働きかける。2006年4月適合高専賃になれば、特定施設の指定が受けられる介護保険法の改正が施行された。
しかし、介護保険法改正をしてまで高専賃で特定施設となれるとした国交省の努力を無にするが如く、適合高専賃でありながら特定施設をとらないものが圧倒的多数を占める。
まるで介護保険が始まった2000年、ライフコミューンやベストライフが特定施設の指定をあえて受けない選択をしたことを思い出させる事態となった。
適合高専賃でありながら特定施設を選択せず、居宅サービスの積み上げ限度額報酬を選択した事業者は学研ココファンやメッセージなどの大手で、これを多くの高専賃事業者が追随した。
2010年10月高専賃はサービス付き高齢者向け住宅に名称や制度が変わり、サ付きの登録をすれば特定施設になれるのは継続されたが、今日に至ってもサ付きで特定施設の指定を受ける割合は低いままである。

「2006年の変」をきっかけに住宅型・高専賃(現サ付き)が急増し、入居者を囲い込み、限度額一杯の不要なケアプランを作り、自社の居宅サービス事業を不当に利用させる悪質な「貧困ビジネス」が全国で見られるようになる。
関西ではさらに悪質化し、生保を入居させ不当な介護報酬・医療報酬を得る悪質事業者が跋扈する。
大阪府は、2017年の調査で、住宅型・サ付きで「囲い込み」と呼ばれる過剰なサービスを提供していると発表し、翌年度の介護保険報酬のマイナス改定に繋がった。
現在、大阪市や堺市などでは、住宅型やサ付きを介護付(特定施設)に転換し、不正が行われないよう対策が始まっている。
まさに、2005年12月の関西5府県福祉部長の要請によって、2006年4月特定施設の総量規制が開始となり、「囲い込み」「貧困ビジネス」の多発化を引き起こす原因となった。総量規制は自治体の介護保険財政の悪化につながったと言える。
住宅型・サ付きで癌末・特定疾患・精神疾患の患者を受け入れ、訪問看護で不当に医療報酬を得る緩和ケアホームの開設が近年目立つが、ここにも2006年の変の影響が繋がっている。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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