第5回 田村明孝の辛口コラム~スウェーデン最先端の高齢者特別住居

スウェーデン・ストックホルム市の西100キロに位置する人口14万人のヴェストラース市はスウェーデン6番目の都市。1990年には市の1000年祭を行うほどの歴史のある都市で、H&Mがこの町で開業したのは1947年、重厚長大産業のABBは1890年この地で創業されている。

高齢化はヴェストラース市も例外ではない。2020年から2030年にかけて高齢者サービスを利用する人たちが急増するとの予測から、高齢特別住居600戸が必要と試算され、改築・新築・学校の再活用などで対応する計画がたてられた。

ミステル・プロジェクト(クリスマスの装飾を意味する)

スウェーデンの革新事業担当省から5か所の市が指定を受け、85歳以上を対象として、様々な問題に革新的考えで、実験的な試みを実施するプロジェクトが2013年から3年間かけて開始された。

さまざまな問題とは、高齢化・労働力の減少・事業化の困難性克服・ユーザーの求めるものの整理・守秘義務・商品の市場性・福祉医療システムの啓蒙・公共の利用制限・革新的で高齢者の自立に役立つものの開発を目指すもので、これらを解決するためヴェストラース市の活動が開始された。

支援団体・大学・介護看護サービス会社・県自治体・年金団体・補助器具センターなど16のパートナーが参加し、小さなグループ活動から様々な会議を積み重ね、技術開発の商品化やデータ解析とワークショップ、テストも多く行いプロトタイプの試作品づくりを繰り返し行った。

その結果、(1)自宅で継続した暮らしのサポート、(2)未来の高齢者特別住居、(3)自立者向けアパート(モデルルーム)に整理して取りまとめを行った。

高齢者特別住居「ヘレボリ」の開発

上記諸問題の解決策(2)未来の高齢者特別住居として、最先端の設備と省エネモデル住宅「ヘレボリ」が誕生した。

ユニット構成となっていて、重度身体介護者と認知症とに分けて、40戸が3棟で総戸数120戸規模。

家庭用のごみ焼却熱による地域暖房を活用し、10か所に穴を掘り地下240mの地熱利用と屋根には太陽光発電を設置。厨房の食品残飯などは破砕してバイオガスにリサイクル活用する。外壁と屋根には50cmの厚さの外断熱を施し、高気密サッシ・5か所に熱交換器を設備。

これら建物の性能を上げることで、高性能の熱交換器による空調設備だけで冷暖房が不要となるパッシブハウスのEU基準である110KWh/㎡をはるかに下回る33KWh/㎡とし、館内温度は年間通して21℃に保つことができる。

冬には氷点下20までになるが、1年を通して果実園・イングリッシュガーデン・日本庭園などの庭の散歩ができるよう屋外暖房も設置され、森に親しむ北欧ならでは生活の継続に配慮されている。

居室は、35㎡から40㎡の広さがあり、高さ可変トイレ・天井ヒーター付きシャワー・可変キッチン・天井走行リフト・高さ調節できるベッド・ダストシュート・冷蔵薬箱(壁付)・光で知らせる火災報知器・Wi-Fiインターネット利用可・安心アラーム・ドアの自動開錠などが設備されている。

見守りセンサーとして、フィンランドで開発された床感知センサー「ELSI」が使われている。タッチパネルと同じセンサー入りの皮膜状の床で、日常的な入居者の動きから転倒などの感知通報ができ、これらがすべて24時間記録され、生活の質の向上や改善、投薬の減少に効果がある。

スウェーデンのヴェストラース市が特別優秀なコミューンではなく、先を見越して問題を解決改善する取り組みはこの様なモデルからスウェーデン全土に広がっていくことになる。日本でも、未来の高齢者住宅を見据えて国を挙げて取り組んでいかなくてはならない。 いつまでも、狭いウナギの寝床の劣悪な高齢者住宅・施設を作り続けることから脱却してほしいと切に願っている。