第9回 田村明孝の辛口コラム~厚労省、有料老人ホーム類型の見直しをなぜしない

国民世論を背景に、ゴールドプランから始まった厚生労働省の時間をかけた周到な準備のもと2000年(平成12年)4月、紆余曲折の末、介護保険法が期待と不安の中施行されたことは記憶に新しい。

自民党右派の亀井静香氏を代表とする反対派の主張は「介護は家族で」であるのに対して、社会をよくする女性の会樋口恵子氏の「介護は社会で」の国民を挙げての議論の末、介護保険制度が始まった。 嫁や娘に押し付けられていた介護を、社会全体で見ていこうとする制度は、安心して暮らすことのできる必要な社会保障制度の基本だ。

この制度の中で、有料老人ホームは特定施設入所(居)者生活介護として指定事業の一つに組み入れられた。これを機に、有料老人ホームの類型の見直しが行われた。(別表参照)

それまでの類型は、1998年(平成10年)4月に定められた、介護状態になった場合の取り扱いや場所によって6種類に分類された。(別表参照) 介護保険施行後の状況を踏まえ「限定介護付利用権存続型」及び「限定介護付利用権解約型」を廃止し、「介護付有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」「健康型有料老人ホーム」の3種類の類型とし、居住の権利形態・入居時要件・介護居室区分・介護職員体制についての重要な表示事項を併記することとした。2003年(平成15年)4月から施行され、この類型が今日に至っている。

現類型は介護保険の特定施設の指定事業者かそうでないかの単純な類型区分にすぎない。

類型変更から20年が経過した今、有料老人ホームは大きな変化の時代に差し掛かっている。

2006年からの介護保険総量規制の影響で、「介護付」は開設に急ブレーキがかかり、特定施設の指定を受けることのできないホームは「住宅型」に流れ込んだ。囲い込みや不要な居宅サービスでケアプランを作る悪質な事業者が蔓延る原因となった。現在看取りを目的としたホスピス系住宅型有料が急増し、ここでも介護報酬違反ともとれる儲けに走る事業者の影がちらついている。

「健康型」は20年前とは大きく意識が変化し、介護のないホームを入居者は選択しないこととなり、有名無実の類型と化した。

入居を決断する高齢者の有料老人ホームの選択思考は、自身の健康状態や生活環境で入居する時点をいつにするか、またどのようなサービスを提供しているかを見極めて決めている。

自立・要支援・要介護の軽度・要介護の重度・認知症ケア特化・看取りホスピスとその状態や介護度によって入居先が決まるのだが、有料老人ホーム事業者は入居者の意向をくんだサービス常に求められ、自立からホスピスまでその幅は広がっている。 団塊の世代の高齢化によって、その選択肢はより増えて、多死化の時代を迎え看取りの受け皿としての有料老人ホームが求められる。

まずは、有料老人ホームでどのようなサービスがなされるのかによる類型の整理を行い、その質をいかに担保するか迄踏み込んだ、新たな類型づくりが必要となっている。 厚労省は2000年の介護保険開始前後の高揚した制度作りを思い起こし、新たな時代に合った有料老人ホームの類型見直しを手始めに、有料老人ホームを施設から住宅への転換、その基となる老人福祉法29条の定義見直し、有料老人ホームの名称変更など、有料老人ホームのあり方を根本的に見直す姿勢で取り組んでほしい。