第33回 田村明孝の辛口コラム~何故住宅型有料を舞台とした不祥事が連発するのか~厚労省「有料における望ましいサービスの在り方」検討会のとりまとめによる住宅型有料規制の効果は?

緩和ケア(ホスピス)ホームの医療介護報酬の不正過剰請求・住宅型有料のずさん経営による倒産で職員一斉退職と入居者放置・入居者紹介事業者による100万円超の高額紹介料請求など、サ付きを含む住宅型有料を舞台とした不祥事が頻発していることに、厚労省老健局は重い腰を上げ、4月その対策に有識者による検討会を立ち上げ、11月5日に取りまとめ、11月10日に介護保険部会に報告し制度見直しに向け議論していくとしている。

その取りまとめの概要は以下となっている。

  1. 有料の運営・サービス提供の在り方
    中重度や医療ケアを必要とする要介護者・認知症高齢者を入居対象とする有料の人員・施設・運営等の基準を設けた登録制₁とする
    事前の重説や入居契約書の事前交付と情報公表システムの構築
    「優良」入居者紹介事業者の認定₂と紹介手数料の月額家賃等に基づく算定方法の公表
    住宅型有料の介護保険事業(支援)計画で把握できる仕組み作り
  2. 行政の指導監督
    更新制とし拒否できる仕組みと行政処分を受けた事業者の開設制限
    事業廃止や停止の場合の運営事業者の責任ある対応
  3. 囲い込み対策
    ケアマネの独立性を担保し、入居契約とケア契約が独立し行政が事後チェックできる仕組み作り
    住まい事業と介護事業の会計分離₃
    介護サービスが特定施設と変わらない場合特定施設への移行を促す₄

特養などの社会福祉施設には国と都道府県整備費補助制度や優遇税制があり、サ付きにも国から整備費補助などの優遇制度があるのに対して、有料には全く補助や優遇制度がない。にもかかわらずその数を増やしてきたのは、自由な発想を阻害しない事業フィールドがそこにあったからだ。まさに純粋な民間事業ゆえ、開設にあたってはサブリースやファンドによる保有など民間の知恵を絞った開設システムや低価格から高額高級なホームまで、その商品性はバラエティーに富んだものが供給されてきた。民間の英知を絞った結果、新たな市場を開拓して、不足する高齢者施設の穴を埋めてきた社会的意義は高く評価されるべきものだ。
しかし、これら事業者の中には、上記事例が示すように悪知恵に長けた者や不法まがいの事業者、明らかに違法な事業者まで紛れ込んでいる。これら一部の悪質な事業者が住宅型有料を舞台に問題を起こしている。悪貨が良貨を駆逐することにならないよう何ら手立ては必要だが、バイタリティーに富みアグレッシブな民間の活力を削ぐことのないよう配慮が必要なことは言うまでもない。
そのためでもないだろうが、この有識者検討会のとりまとめは、下線部分以外は過去にも言い尽くされたことばかりが並んでいて、民間の活力を削ぐほどの改革ではないが、その実効性も薄い。

下線部についても検討が必要だ。
₁ ;今の日本では要介護度がつけば高齢者住宅・施設の入居入所となるが、中重度の要介護者は自宅(従来住んでいる場所)で居宅サービスを使用し住み続け、医療ケアも同様自宅で訪問医療を使って住み続ける。唯一高齢者住宅・施設に移り住むのは自宅での生活継続が困難な認知症高齢者であるべきだ。厚労省が推進する地域包括ケアが機能不全のためにこれが可能となっていない。まずは理想とする方向性を定めた後に、登録の基準を決めるべきで、その場しのぎの登録制度では何の解決にもならない。
₂ ;入居紹介事業所に「優良」マークを付するのは困難だ。随分以前に遡るがシルバーサービス振興会が有料に優良マークを付けることとしたが、基準の定めが曖昧で取りやめとなったことがある。「優良」の認定をするのは、有料などの運営に携わる3団体の集まりだとなると、公営と言えども利益相反となり公正な判断が損なわれる可能性がある。「優良」マークを付けられるはずがない。
₃ ;
住まい事業と介護事業の会計を分離し公表することは大賛成だ。アンビスは入居費を赤字の低額設定で、入居者に月額費用の安さをアピールして入居促進。一方その穴埋めは医療費の不正請求で賄っている。会計分離をすることでこれが明確になるため有益だ。
₄ ;住宅型を特定施設に移行させることは、とても重要なことだ。要介護5だと住宅型の限度額は月36万円の積み上げ報酬に対して介護付は25万円の定額報酬。特定施設は介護保険法の基に運営されるのでチェック機能もあり不正の温床を排除できる。
2006年の総量規制以前は、介護付が有料の主流であったが、特定施設に総量規制がかかったため住宅型に流れていった経緯がある。総量規制の撤廃も含めて特定施設への移行を強力に推進すべきだ。

検討会取りまとめ内容は実効性が甚だ疑わしい。
何より不正を報道され自らも認めているアンビス・サンウェルズの両者に未だ医療報酬の返還や罰則適用がなされていないことが、悪質な事業者を蔓延させている最大の要因だということを厚労省及び検討会は肝に銘じるべきだ。いずれ刑事訴追も免れないだろうし、東証プライム上場企業の不祥事対応の厳正処分も東証に問われている。
これら不祥事を処分した上でない限り、今般の取りまとめは意味をなさない。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。

1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。

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