第8回 田村明孝の辛口コラム~特定施設の人員配置基準見直しより基準撤廃

特定施設入居者生活介護は、特定施設(有料老人ホーム・軽費老人ホーム・養護老人ホーム)に入居している要介護者を対象に日常生活のお世話や介護を提供する介護保険サービスで、運営基準・人員基準・設備基準を満たしたものが「特定施設」の指定を受けることができる。ただし、自治体の介護保険事業計画の見込み量を超えると指定を受けられないことがある。

人員基準は、管理者1名(兼務可)・生活相談員は要介護者100名までは1名・看護介護職員は要支援者10:1 要介護者3:1(ここが議論のポイント)ただし看護職員は要介護者30名までは1名・機能訓練指導員1名以上(兼務可)・計画作成担当者1名以上(兼務可)と介護保険法で決められている。
特定施設の人員基準を先進的な取り組み(センサーなどICT活用や介護ロボット導入など)により、サービスの質を落とさず、職員の負担軽減や人員削減を行っている特定施設に対して、4:1の人員配置であっても違法としないとする案が検討されている。
慢性的な介護職員不足で2040年には69万人の不足が予測されているなか、介護現場においてセンサーなどテクノロジーを駆使することによって、介護職員を減らせることが可能だとした現場の実証ケースを取り上げ、議論が始まった。
一方で介護現場からは、介護の質の低下につながり、介護職員へ過重な負担がかかるとして強い反対意見が出されている。

特定施設は手厚い介護(2.5:1以上の配置)をするホームに対して、上乗せ介護費をとっても良いことになっている。介護付有料老人ホームのブランド別にみると9割のブランドが手厚い介護に該当する2.5:1以上だ。ブランド平均では2.15:1となっている。
中でも特に手厚い介護を行う「グランクレール」や「ソナーレ」の1:1から、1:1.5の間には14のブランドがある。
2.5:1から3:1の間の上乗せ介護費をとらないブランドは、「やわらぎ苑」「杜」「明生苑」など10ブランドが並ぶ。
1:1のブランドは月額利用料約65万円に対し、3:1のブランドは月額利用料約15万円と月額料金の差は50万円と大きく開いている。(いずれも当社調べ)

介護職員の不足はますますひどくなり、基準を満たす介護職員の確保ができず、特定施設の運営にも多大な影響を与えているのが実情だ。より良い介護を目指す特定施設ほど介護職員確保に躍起となり、コストの高い外国人労働者にまで熱い視線が向けられている。 
このような状況下にあって、3:1といった人員基準を続けていくことは、先行きの介護職員不足の激化から見ても、基準を継続することは困難となる。ただ手をこまねいているのは、特定施設の運営に支障をきたし、介護崩壊に繋がりかねない。
人員配置基準は撤廃して、介護の質に応じた介護報酬を設定したほうが、現実的ではないだろうか。実際2.5:1以上の手厚い介護職員の配置をした特定施設は、家賃や食事なども含めた料金設定は高額となっているのに対して、3:1ギリギリの配置をしている特定施設は低サービスで低廉の価格設定となっている。
ここに着目し、介護サービスは自由価格で高額の料金設定ができるようにする。これを原資として介護職員を給与面で優遇し、優秀な人材を確保できることにもつなげる。
低サービスの特定施設は、上乗せ介護費の徴収は認めず、低廉な価格が売りとなるが、介護報酬を得ることで一定の品質は担保する。
手厚い介護サービスが行われているかどうか、家族や本人・行政・専門家などの複数の評価を行い、その評価を公表し、良し悪しを他の特定施設と比較することで、入居に関して客観的判断材料が提供できる。またこの評価に基づいて介護報酬に差をつけるなど、低品質なホームに居づらい環境を作り、特定施設全体の品質レベル向上に寄与する。

人員配置を法的に定めていないスウェーデンでは、介護の質のスペックを行政が定め基準となる品質を担保した上で、介護の質が比較できるよう外部評価を公表している。