- 2026/04/14
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- 田村明孝の辛口コラム
2000年4月介護保険制度が施行された。
有料老人ホームが介護保険居宅サービスの特定施設入所者(入居者)生活介護の指定事業者となり介護を提供すれば、その介護サービスの量にかかわらず、入居者の要介護度に応じて事業者が包括的に介護報酬を得られることとなった。いわゆるマルメ報酬だ。最重度の要介護度5の入居者は月額約25万円の介護報酬を得られる。
それまで徴収していた介護一時金を入居者に返還しても、経営の安定を図る上で、有料老人ホーム事業者にとって願ってもないチャンスが巡ってきたと当時捉えられていた。事実2000年介護保険制度が始まって2005年までの間、ほとんどの有料老人ホーム事業者は特定施設となっている。
一方、特定施設の指定を受けない住宅型有料老人ホームでは、自宅で生活するのと同様にケアプランに基づく訪問系や通所系の介護サービスを提供し、要介護度5の入居者は支給限度額上限の約36万円まで介護サービスを利用できる。目敏い事業者は自社関連の訪問介護やデイサービス・ケアマネの事業所を立ち上げ、限度額一杯の介護報酬を得ようとする。当時これを選択した事業者はライフコミューン・ベストライフ・サニーライフなどの低価格帯の事業者が多かった。
当時、介護保険サービスで不正を行う有料老人ホーム事業者の扱いに苦慮していた東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県・静岡県・茨城県の関東地区の有料老人ホーム部局担当者が集まり、どのような不正が行われているか有料老人ホームに関する情報交換が内々に行われていた。不正を未然に防ぐには、有料老人ホーム事業者に介護保険法のハードルを付す、特定施設をとるように指導することだった。これを実践したのが主に東京都と神奈川県だ。それ以外の県は事業者に対して特段の指導は行わなかったが、ここに参加した県はおおむね特定施設に誘導していることがわかる。
関西圏では、2000年以前から有料老人ホームの倒産や悪質事業者による不正で、自治体に苦情が寄せられ議会でも問題となっていた。自治体では民間事業者の参入排除の機運が高まり、できることなら有料老人ホームには開設してほしくない。ましてや特定施設などもってのほかと、過去の被害のトラウマから抜け出せない状態にあった自治体が多かった。このような背景から、関西圏では有料老人ホームの特定施設の指定は認めず、住宅型有料老人ホームが増加することとなる。(グラフ1)

介護保険事業者である多くの市区町村は、従来自治体が措置で行ってきた福祉サービスを民間に委ねることに抵抗感があったことは否めない。事業利益を最優先にする民間事業者が介護保険事業に参入することに対する拒否感、根強いトラウマが自治体の根底にはあった。
2005年12月関西圏の府県の福祉部長連名で厚労省に特定施設の指定を拒否できる権限を付すよう要望書を提出し、厚労省は介護保険法を急遽改定していわゆる総量規制を2006年4月から施行してしまう。これを機に特定施設の指定は激減する。(グラフ2)

有料老人ホーム事業は自治体への届け出制度のため開設を自治体が拒否することができない。また運営に問題があっても自治体による立ち入り調査や強制的な指導ができないことから、その後住宅型有料老人ホームをプラットホームとした様々な不正が行われ、不正の温床の場となっていく。
要介護者を入居させ不要な介護サービスをケアプランに組み入れて限度額上限まで使う介護報酬不正請求、要介護者であり生活保護者である高齢者を入居させ生活保護費をピンハネし、介護・診療報酬の不正請求を目的とした「貧困ビジネス」は主に関西圏でおきている。ここ10年急増する緩和ケア(ホスピス)ホームを舞台とした訪問看護ステーションを併設した不正な診療報酬請求事件、経営に疎い医師が開設した低価格有料老人ホームの倒産で入居者が置き去りにされた事件は、記憶に新しい。
住宅型有料老人ホームで次々に起こる問題・事件。この解決にあたって先ずすべきことは、2006年に遡って総量規制を廃止することから始めるべきだろう。特定施設の指定を受けた有料老人ホーム「介護付有料老人ホーム」にシフトしていくべきだ。
その上で、今回厚労省がまとめた改善策を講じていったら良い。
諸悪の根源は総量規制にあり。
関西圏の囲い込みによる不正請求に大阪府は委員会を開設しその対策を講じたが、住宅型やサ付きを介護付に誘導するという結論を出した。
2005年総量規制を要請した関西自治体が招いた自業自得ともいえるものだと理解している。

1974年中銀マンシオンに入社、分譲型高齢者ケア付きマンション「ライフケア」を3か所800戸の開発担当を経て退社。
1987年「タムラ企画」(現タムラプランニング&オペレーティング)を設立し代表に就任。高齢者住宅開設コンサル500件以上。開設ホーム30棟超。高齢者住宅・介護保険居宅サービス・エリアデータをデータベース化し販売。「高齢者の豊かな生活空間開発に向けて」研究会主宰。アライアンス加盟企業と2030年の未来型高齢者住宅モデルプランを作成し発表。2021年には「自立支援委員会」発足。テレビ・ラジオ出演や書籍出版多数。
